ゲキカン!


作家 島崎町さん


たくさん観てるわけではないけど、おそらく、僕がいままで観た高校演劇の中で最上位に位置するできだった。

終演後、客席からは感嘆の声がいくつももれていた。場内で数年ぶりに会った知り合いが、終演後にメッセージで「すばらしかったですね!」と送ってきた。この舞台のよさをだれかと語りたい、だれかに伝えたい、そう思わせるものがあった。

帯広三条高校演劇部『つぶあんとチーズ』は、「第73回全道高等学校演劇発表大会」で最優秀賞に選ばれた作品だ。1月10日、演劇シーズン2024冬の特別プログラムとして「かでるアスビックホール」で再演された。

学校祭が終わろうとする午後、売り上げ計算のために残るふたりの生徒。明るい夏美と静かな桃花、タイプの違うふたりの交流が楽しく描かれる。

この舞台がすぐれているのは、とにかくていねいであるところだ。すべてに対して行き届いている。序盤、夏美がスマホで「レット・イット・ゴー 〜ありのままで〜」を流しながら作業をはじめる。音は、舞台中央から聞こえる。ホールの左右にあるスピーカーからではなく。そのとき思った、あ、この舞台は違うなと。

そうして曲の1番の終わりと同時に夏美の作業も終わる。ピッタリ。なんかもう、イヤミなくらいうまいよ!

そう、僕はうますぎるとまで思った。かぎりなくていねいに、突き詰めてつくったこの舞台の完成度はすばらしい。物語も面白い、演出もいい、音楽との連動、歌詞とのリンク、至れり尽くせりの60分で、ここまでやれたら最優秀賞だろうとうなづける。

作・演出をつとめた顧問の井手英次の力も大きいのだろう。しかし、この舞台がうまさの発表会におちいらずに多くの観客の心を動かしたのは、やはり役者の好演が大きかった。

神原夏美を演じた石田紗菜の気持ちのいい明るさと達者ぶり。物語全体が彼女の陽気さで輝く。いっぽうその対極にある、ひたすらまじめにお金の集計をする高井桃花を演じた和田一花の静の演技。ここがブレると舞台は崩壊するのだが、訳あって友達をつくらない桃花を好演した。彼女のささいな変化が心を打つ。

また、橘先生役の藤原みのりも中盤、驚くべき衣装替えを見せて面白かった(ほかに、校内放送の声として最初の笑いを誘ったのは若原六花)。

部員4名の演劇部だが、ていねいなつくりで面白いものをしっかりつればここまでできる、というお手本のような舞台だ。

「レット・イット・ゴー」や終盤に流れるあの曲の歌詞とのリンクは、はからずもグッとくるが、おそらくあれ以上やったらやりすぎになるだろう。その手前で制御されていて、それは物語の終わり方にも言える。セリフでエモーショナルを高めることもできるかもしれないが、あえてそうしない。だからこそ客席からため息が漏れた。感情が伝わったということだ。

完璧さを求めつくりこんだ舞台だが、最後の最後は多くを語らず観客へ託す。その信頼感もよかった。

島崎町(しまざきまち)
作家・シナリオライター。近著『ぐるりと』(ロクリン社)は本を回しながら読むミステリーファンタジー。現在YouTubeで変わった本やマンガ、絵本など紹介しています! https://www.youtube.com/channel/UCQUnB2d0O-lGA82QzFylIZg
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